労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタント。
どちらも労働安全衛生法に基づく国家資格ですが、その違いをご存じでしょうか。
「名前は似ているけれど、仕事内容は違うの?」
「どちらの試験が難しい?」
「独立開業するなら、どちらが有利?」
こうした疑問を持つ方も多いと思います。
結論から申し上げると、両資格には共通点もありますが、専門とする領域が大きく異なります。
簡単に整理すると、
労働安全コンサルタントは、主に労働災害を引き起こす事故の危険性を評価し、その防止を支援する専門家。
労働衛生コンサルタントは、主に働く人の健康障害につながる有害要因を評価し、その防止を支援する専門家。
という違いがあります。
ただし、実際の職場では安全と衛生を完全に切り離すことはできません。
今回は、両資格について7つの観点から比較し、どちらを目指すべきなのか考えてみます。
1.労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントの基本的な違い
まずは、両資格の特徴を比較してみましょう。
| 比較項目 | 労働安全コンサルタント | 労働衛生コンサルタント |
| 主な目的 | 事故による労働災害の防止 | 労働者の健康障害の防止 |
| 主な専門領域 | 機械・電気・化学・土木・建築 | 保健衛生・労働衛生工学 |
| 代表的な業務 | 設備の安全診断、事故防止対策 | 作業環境改善、健康管理支援 |
| 関連する専門職 | 技術士、施工管理技士、安全管理者など | 医師、産業医、衛生管理者、作業環境測定士など |
| 試験区分 | 5区分 | 2区分 |
| 2025年度最終合格率 | 14.2% | 21.0% |
| 独立開業 | 可能 | 可能 |
両資格は上下関係にあるわけではありません。
また、いずれも試験に合格するだけでなく、所定の登録を受けることで、その名称を用いてコンサルタントとして活動できるようになります。
2.仕事内容の違い|事故防止か健康障害防止か
労働安全コンサルタントの仕事内容
労働安全コンサルタントは、主に職場で発生する事故の危険性を評価し、事故を防止するための助言を行います。
例えば、次のような業務が考えられます。
- 建設現場の墜落・転落事故の防止
- 工場における機械への巻き込まれ事故の防止
- 電気設備による感電災害の防止
- 化学プラントにおける爆発・火災リスクの評価
- 労働災害の原因調査と再発防止対策
- リスクアセスメントの実施支援
機械設備や建設現場などに関する技術的知識が求められる領域です。
労働衛生コンサルタントの仕事内容
一方、労働衛生コンサルタントは、働く人の健康障害を防止するための診断・指導を行います。
具体的には、次のような業務が考えられます。
- 化学物質へのばく露による健康障害の防止
- 粉じん、騒音、有機溶剤などの作業環境改善
- 職場の熱中症対策
- 健康管理体制の改善支援
- メンタルヘルス対策への助言
- 作業方法や作業環境の改善提案
労働衛生コンサルタントの場合、医学・産業保健の知識だけでなく、労働衛生工学の知識が重要になる場面もあります。
実際の現場では両方が必要になる
例えば、化学工場を考えてみましょう。
可燃性物質による爆発を防ぐには、安全管理の専門知識が必要です。
一方、作業者が有機溶剤を吸入することによる健康障害を防ぐには、労働衛生管理の専門知識が必要になります。
つまり、同じ職場であっても、安全と衛生では評価するリスクが異なるのです。
事故を防ぐ視点と、健康障害を防ぐ視点。この両方を組み合わせることが、職場の安全衛生水準を高めるうえで重要です。
3.試験区分の違い|安全は5区分、衛生は2区分
両資格では、試験の専門区分も異なります。
労働安全コンサルタントの5区分
労働安全コンサルタント試験には、次の5区分があります。
- 機械
- 電気
- 化学
- 土木
- 建築
自分が持っている専門知識や実務経験に応じて、受験区分を選ぶことになります。
例えば、建設業で長年働いてきた方であれば、土木や建築の区分が選択肢となるでしょう。
労働衛生コンサルタントの2区分
労働衛生コンサルタント試験には、次の2区分があります。
- 保健衛生
- 労働衛生工学
保健衛生は、健康管理や産業保健などの知識を中心とする区分です。
労働衛生工学は、作業環境管理や有害因子の評価、工学的な改善対策などに重点を置いた区分となります。
特に労働衛生工学は、単に健康障害について知識があるだけではなく、工学的な対策を理解していることが重要になります。
4.受験資格の違い|医師や技術者ではどう違う?
受験資格にも違いがあります。
両資格とも、理科系統の所定の学歴と実務経験を組み合わせる代表的な受験ルートがあります。
例えば、理系大学卒業後5年以上の実務経験が必要となるルートです。
ただし、安全では「安全の実務」、衛生では「衛生の実務」が必要となります。
また、資格や職務経験による受験ルートには違いがあります。
労働安全コンサルタント
代表的な対象者として、次のような方が挙げられます。
- 所定の学歴と安全実務経験を満たす方
- 安全管理者として10年以上職務に従事した方
- 技術士第二次試験合格者
- 1級土木施工管理技士
- 1級建築施工管理技士
- その他、法令で定められた資格・職務経験を持つ方
労働衛生コンサルタント
一方、衛生では次のような受験ルートがあります。
- 所定の学歴と衛生実務経験を満たす方
- 医師国家試験合格者など、法令上の医師に関する要件を満たす方
- 歯科医師国家試験合格者など、所定の要件を満たす方
- 薬剤師
- 保健師として10年以上業務に従事した方
- 技術士第二次試験合格者
- その他、法令で定められた資格・職務経験を持つ方
医師にとっては労働衛生コンサルタントが選択肢になりやすい
特に大きな違いは、医師に関する受験資格です。
労働衛生コンサルタントでは、医師国家試験合格者などに受験資格が認められています。
一方、労働安全コンサルタントでは、医師資格だけで受験資格が得られるわけではありません。
したがって、医師が新たにコンサルタント資格を取得しようと考える場合、労働衛生コンサルタントは比較的検討しやすい資格といえます。
ただし、受験資格を満たすことと、筆記試験が免除されることは別です。
筆記試験免除については、別途定められた要件を確認する必要があります。
5.難易度の違い|合格率が低いのはどちら?
資格取得を検討するうえで、試験の難易度は気になるところです。
安全衛生技術試験協会が公表している2025年度(令和7年度)の試験結果を確認してみましょう。
2025年度の最終合格率
| 試験 | 最終合格率 |
| 労働安全コンサルタント | 14.2% |
| 労働衛生コンサルタント | 21.0% |
数字だけを見ると、労働安全コンサルタントのほうが難しそうに見えます。
しかし、ここには注意が必要です。
最終合格率だけで、どちらの試験が難しいかを判断することはできません。
労働衛生コンサルタントは区分による違いが大きい
同じ2025年度の試験結果を区分別に見ると、次のようになっています。
| 試験区分 | 最終合格率 |
| 安全・機械 | 20.3% |
| 安全・電気 | 23.8% |
| 安全・化学 | 21.1% |
| 安全・土木 | 12.6% |
| 安全・建築 | 12.5% |
| 衛生・保健衛生 | 40.0% |
| 衛生・労働衛生工学 | 9.0% |
注目したいのは、労働衛生工学の最終合格率が9.0%だったことです。
労働衛生コンサルタント全体の合格率は21.0%ですが、区分ごとに大きな差があることが分かります。
医師などの筆記試験免除制度も考慮する必要がある
労働衛生コンサルタントの保健衛生区分には、一定の条件を満たす医師などに対して筆記試験を免除する制度があります。
2025年度の労働衛生コンサルタント試験では、口述試験受験者628人のうち408人が筆記試験全部免除者でした。
そのため、全体の最終合格率には、筆記試験を受験した方と免除された方が含まれています。
試験区分や受験者の資格構成が異なる以上、単純な合格率比較には限界があります。
なお、最終合格率の計算には、筆記試験の受験者と、筆記試験全部免除で実際に口述試験を受験した方が含まれます。
口述試験も重要
両資格とも、筆記試験だけではなく口述試験が実施されます。
知識を暗記しているだけでなく、実務を想定した状況で、どのように判断し説明できるかが重要です。
特に、法令の理解と専門知識を現場の問題に結び付けて説明する力が求められます。
単なる資格試験対策だけでなく、実務的な視点を持って学習することが重要と考えられます。
6.年収・収入の違い|どちらが稼げる?
労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントの収入についても、気になる方は多いでしょう。
ただし、両資格には全国共通の給与水準や統一された報酬額があるわけではありません。
資格を取得すれば、必ず高年収が得られるという制度でもありません。
ここは慎重に考える必要があります。
収入の得方は大きく3つ
両資格とも、収入の得方としては次のような形が考えられます。
① 企業などに勤務する
企業の安全衛生部門や専門的な支援業務に従事し、給与収入を得る方法です。
資格が昇進や評価に結び付く可能性はありますが、具体的な処遇は勤務先によって異なります。
② スポット業務を受託する
事業場の安全衛生診断、労働災害防止対策への助言、研修講師などを個別に受託する方法です。
ただし、診断や研修に対する報酬は依頼内容や契約条件によって変わります。
③ 継続的な顧問契約を結ぶ
企業の安全衛生管理体制について、継続的に助言する方法です。
定期訪問や相談対応などを組み合わせることで、継続的な収入につながる可能性があります。
ただし、資格取得だけで顧問契約が成立するわけではありません。
安全と衛生では、収益につながる専門性が異なる
労働安全コンサルタントであれば、建設業や製造業などにおける設備・作業の安全管理が強みになり得ます。
労働衛生コンサルタントであれば、健康管理、化学物質管理、作業環境改善などが強みとなり得ます。
医師や産業医としての専門性を持つ場合には、健康管理や産業保健に関連する業務との相乗効果も期待できます。
一方、技術士や施工管理技士としての専門性を持つ場合には、労働安全コンサルタントの知識を既存業務に活かしやすいでしょう。
結局、どちらの年収が高い?
現時点で、両資格の平均年収を同一条件で比較できる十分な公的統計は確認できません。
したがって、どちらが高年収になりやすいかを一律に断定することは適切ではありません。
むしろ重要なのは、次の要素です。
- これまでの専門領域
- 実務経験と実績
- 顧客企業との関係
- 提供できるサービスの内容
- 継続契約を獲得できるかどうか
資格そのものよりも、資格を使ってどのような課題を解決できるかが収益を左右すると考えられます。
7.独立開業と将来性の違い|どちらを選ぶべき?
両資格とも、登録後は独立してコンサルタント業務を行うことが可能です。
ただし、独立開業の可能性と、独立後に安定した収入を得られるかどうかは別の問題です。
労働安全コンサルタントの将来性
労働災害の防止は、今後も企業にとって重要な課題です。
厚生労働省によると、2025年の休業4日以上の労働災害による死傷者数は、新型コロナウイルス感染症によるものを除き135,333人でした。
労働災害を減少させるためには、危険性の評価や設備の改善、作業手順の見直しなどが必要です。
特に、製造業や建設業などで技術的な経験を持つ方にとって、労働安全コンサルタントは専門性を活かしやすい資格と考えられます。
労働衛生コンサルタントの将来性
労働衛生の分野でも、企業が対応すべき課題は変化しています。
例えば、化学物質の自律的管理、熱中症対策、メンタルヘルス対策などです。
さらに、2025年の労働安全衛生法改正により、2028年4月1日から労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。
こうした制度の変化によって、小規模事業場でも労働衛生管理体制を整える重要性が高まっています。
ただし、ストレスチェック関連業務のすべてを労働衛生コンサルタントが単独で実施できるわけではありません。
実施者に求められる資格などは別途定められているため、業務ごとの法的要件を理解する必要があります。
独立開業を考えるなら「資格+専門領域」
独立開業を目指す場合、資格だけで事業を組み立てるのではなく、専門性を明確にすることが重要です。
例えば、
- 建設業の災害防止に強い安全コンサルタント
- 製造業の設備安全に強い安全コンサルタント
- 化学物質管理に強い衛生コンサルタント
- 産業保健や健康管理に強い衛生コンサルタント
といった形です。
自分が何を専門としているのか、どのような企業の問題を解決できるのかを明確にすることで、依頼する側にもサービスの価値が伝わりやすくなります。
8.両方の資格を取得するメリットはある?
労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントは、それぞれ独立した資格です。
両方の試験に合格し、登録要件を満たせば、両資格を保有することも可能です。
では、両方取得するメリットはあるのでしょうか。
最大の利点は、安全と衛生の両面から職場の問題を検討できることです。
例えば、化学物質を使用する事業場では、爆発・火災の危険性と、化学物質のばく露による健康障害の危険性を同時に検討する必要があります。
両分野の知識を持つことで、より広い視点から改善策を提案できる可能性があります。
ただし、資格を2つ取得するためには、それぞれの受験資格や試験内容に対応しなければなりません。
そのため、すべての方が両資格を目指すべきというわけではありません。
まずは自分の専門領域に近い資格を取得し、必要に応じて専門性を広げていく考え方が現実的でしょう。
9.結局、どちらを目指すべき?
ここまでの内容を踏まえ、どちらの資格が向いているのか整理してみます。
労働安全コンサルタントが向いている方
- 建設業や製造業などで安全管理に従事している方
- 機械・電気・土木・建築などの専門知識を持つ方
- 設備や作業に伴う事故の防止に関心がある方
- 技術的な安全診断を専門としたい方
労働衛生コンサルタントが向いている方
- 医師・産業医など医療系の専門職
- 衛生管理者や作業環境測定士などの経験を持つ方
- 化学物質管理や作業環境改善に関心がある方
- 働く人の健康管理や産業保健を専門としたい方
資格選びで最も重要なのは?
単純に合格率や資格の知名度だけで選ぶのではなく、現在持っている専門知識と、将来取り組みたい仕事の両方から考えることをおすすめします。
両資格とも、試験合格後にどのような専門家として活動するかが重要になるためです。
10.よくある質問
Q.労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントはどちらが難しいですか?
2025年度の最終合格率は、安全14.2%、衛生21.0%でした。
ただし、試験区分や受験者の保有資格、科目免除の有無が異なるため、一概には比較できません。
Q.医師は労働安全コンサルタントも受験できますか?
医師資格だけで労働安全コンサルタントの受験資格が得られるわけではありません。
安全の実務経験や別の保有資格などによって、所定の受験資格を満たす必要があります。
Q.両方の資格を持つことはできますか?
はい。それぞれの試験に合格し、必要な登録を行えば、両資格を保有できます。
Q.資格を取得すれば独立開業できますか?
両資格とも、登録後に独立してコンサルタント業務を行うことは可能です。
ただし、資格取得と顧客獲得は別の問題です。
専門知識に加えて、実績や営業活動、継続的な信頼関係の構築が重要になります。
Q.将来性が高いのはどちらですか?
どちらにも専門的な役割があります。
労働安全では、機械や建設現場などの事故防止が重要な課題です。
労働衛生では、化学物質管理やメンタルヘルスなどの健康障害防止が重要な課題となっています。
将来性を比較する際は、資格名だけでなく、自分の専門性と対象業界のニーズを考慮することが重要です。
11.まとめ|安全と衛生、どちらも職場に必要な専門資格
労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントには、共通点もありますが、専門とする領域には明確な違いがあります。
今回のポイントをまとめます。
- 労働安全コンサルタントは主に事故による労働災害の防止を支援する
- 労働衛生コンサルタントは主に健康障害の防止を支援する
- 試験区分は安全が5区分、衛生が2区分
- 受験資格にはそれぞれ異なるルートがある
- 2025年度の最終合格率は安全14.2%、衛生21.0%
- 合格率だけで難易度を比較することはできない
- 両資格とも登録後の独立開業が可能
- 収入や将来性は専門領域や実績によって左右される
資格を選ぶ際には、どちらが簡単か、どちらが稼げるかだけで判断するのではなく、自分がどのような専門家になりたいのかを考えることが大切です。
安全と衛生は、対立する領域ではなく、お互いを補完する関係にあります。
労働災害の防止と働く人の健康の保持。
その両方を支える専門家として、労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントの役割は、今後も重要であり続けると考えられます。
関連記事
受験資格について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
労働安全コンサルタントの受験資格についても、労コンラボ内の関連記事で解説しています。
参考資料
1.厚生労働省「労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタント」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_04164.html
2.公益財団法人 安全衛生技術試験協会「労働安全コンサルタントの資格紹介・受験資格」
https://www.exam.or.jp/introduction/h_shokaiconsul/
3.公益財団法人 安全衛生技術試験協会「労働衛生コンサルタントの資格紹介・受験資格」
https://www.exam.or.jp/introduction/h_shokaieisei/
4.公益財団法人 安全衛生技術試験協会「統計」
https://www.exam.or.jp/h_gokakuritsu/
5.厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73382.html
6.厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/
※本記事は2026年10月時点の公表情報をもとに作成しています。試験制度や受験資格などの最新情報は、公式サイトでご確認ください。